2007年9月18日号 - 新刊紹介・新刊を読む

記事

新刊を読む 『文字の都市――世界の文学・文化の現在10講』


 東大の文学研究に、面白そうな動きが始まっている。現代日本でもピカ一の翻訳家でありエッセイストでもある、沼野充義教授(ロシア・東欧文学)と柴田元幸教授(英米文学)がスタッフに名を連ねる「現代芸論」教室が文学部に発足したのだ。本書『文字の都市―世界の文学・文化の現在10講』は、この「現代文芸論」の序奏ともなった「多分野交流演習」の講義「今日の世界文学」が基になった企画である。
 現代日本文学の気分に「場所感のなさ」から迫る巻頭エッセイから、ロシア、アイルランド、古典などを経て、互いに似だした日米の21世紀小説へと、あれよあれよと読む人を世界中連れまわす。これらのエッセイに満載された情報の面白さ(こんな小説が、詩が、音楽が、あったのか!)だけでも手にとっていただく価値はある「エッセイ集」だと思われるが、実はこの本は、ある種の〝研究入門〟でもあるのだ。
 さまざまな批判概念が飛びかう現在の文学・文化研究だが、ある作品から〝批判に都合のいい部分〟―たとえば、これはポストコロニアル批判に使えそうだ、など―を取り出してみせるようなことを、この本の書き手たちはしない。作品に魅せられること、文学や音楽をそれぞれ〝質〟として問うこと、実はここにこそ研究がある根拠だといっているようにも思えてくる。
 作品や、作品を作る人生と触発しあう文学・文化研究へのいざない……本書は今後の「現代文芸論」の向かう先を示すサンプラーとして、大いに注目されるだろう。《寄稿・東京大学出版会》