『星の王子さま』『カラマーゾフの兄弟』をはじめとして、古典作品の新訳が相次いで出版されている。「翻訳」にあらためて注目が集まっているが、その理由は何だろう。たとえば、現代人に合った自然な言葉遣いであったり、翻訳者の着実な解釈による訳文であろうか。
実際、翻訳という営みは、どのような方法で行われているのか。それに対して、ある答えを試みようとするのが本書である。V・S・ナイポール、R・キプリングなど数多くの訳書で知られる斎藤兆史准教授(総合文化研究科)による文芸翻訳の入門であり、翻訳の基本となる技術を身に着けながら、同時に語学や文学、翻訳理論を学ぶことができる内容になっている。
著者は英語文体論の専門であることもあって、英語から日本語への翻訳にしぼって解説している。しかし、翻訳の基本は同じなので、たとえば日韓、独仏など、他の言語間の翻訳を手掛けようと思っている人にも役立つ内容を含んでいるはずだ。
取り上げる題材は、カズオ・イシグロ『日の名残り』、R・ダール『チャーリーとチョコレート工場』から、シェイクスピア『ロミオとジュリエット』、夏目漱石の『門』の英訳までバラエティに富む。さらに練習問題のスタイルなので、読者はそれらを解くうちに自然に理解が深まるようになっている。
本書を通して、翻訳はその技術のみならず、語学学習や文学・文化理解と大きくかかわっていることを実感できるに違いない。翻訳に関心のある方に絶好の一冊。(寄稿=東京大学出版会)
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